2009年06月01日

どこかのきみへ

最後の言葉は確か「またね。」だったと思う。お互いに会釈してそう言いながら正反対に向きを変えて歩き出した。「“またね”か。」「三陸沖とペルー沖に落とした貝殻が太平洋のど真ん中で合わさるようなものだ。」ぼくはその言葉をさっさと捨てた。その後で目まぐるしくいろいろな出来事があって、そのなかを必死で泳いできた。そして、随分変った。この間ひょっこり出てきた学生証の写真の髪型を見て、ぼくはそれが自分自身であることが信じられなかった。でもそれは紛れもなく自分の顔だった。

どこかから盗んできた鯵の開き
たんと食べて腹いっぱいのねこ
目の前をねずみがちょろちょろと
ねこはさっと踊りかかって
前足の爪に引っ掛けた
引っ掛けては離し
引っ掛けては離し
止めを刺して食べるでもなく
引っ掛けては離し
やがて動きが鈍くなったねずみの鼓動が
前足の裏で次第に弱っていくのを確かめて
それをさっさと捨てた
それからどこかの塀の上で日向ぼっこ

さて、ねこが本当にこんなことをするかどうか分からない。でも例えるとしたら、たぶんそんなことだろう。「またね。」という言葉をそっと胸ポケットにしまいこんでおくというのは“美しくもかなしい”ことであると思う。それをさっさと捨ててしまうとはどういうことか。“美しくもかなしい”の範疇に含まれるのか、それとも正反対のことなのか。自分なりの考えがまとまりそうで、まとまらない。ただぼくのことを例えるならば、ねずみをもてあそぶねこといったところなのではと、そんなことを思ったのだ。
言葉をさっさと捨てる。これは「6月6日の午後6時、二丁目の画廊前のパーラーで会おう。」という種類の約束を忘れちゃった。そういう類のこととは本質的に異なる。そういうところがどこかある。ほんとうに“黒い”ということは、ほんとうに“黒い”のだ(さて、“黒い”ということに意味はあるのか)。

ぼくはいま“黒の”牢獄からこの手紙を書いている。
きみはいまどこにいるのだろうか。
光り輝く海原を航海しているのだろうか。
きみの航海の安全を祈る。

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2009年05月27日

丘の上に大きな木

丘の上にそびえ立つ
一本の枝が不格好に伸びた
ゆられて今にも倒れそう
丘の上に大きな木

丘の上にそびえ立つ
一本の枝にすべてをとられた
小枝は全部枯れちゃった
丘の上に大きな木

丘の上にそびえ立つ
幹だけすらっと大空指してる
最後の枝も折れちゃった
丘の上に大きな木

丘の上にそびえ立つ
幹のてっぺんに緑が芽吹いて
ゆられて生命を奏でてる
丘の上に大きな木
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2009年05月25日

宴のあとに

燕尾服を着こなした紳士
恰幅もよく
内ポケットに向けて輝く鎖が流れ落ち
どうやら懐中の金時計に繋がっているらしい
粋にシルクハットを被って
スラックスには気持ちよく線が通り
靴はピカピカに磨き上げられている

それだというのに
どうだ、手械がはめられて
先導する馬車に繋がれている
断頭台へでも連れて行かれるというのか
それにしても先導する馬のなんという間の抜けた顔
護衛官があれだけ鞭を与えているのに
とうとう立ち止まってしまった
ああ、糞をひりだした

行軍をながめる沿道の人々
口々に唱える
ちっぽけな金で大金を巻き上げやがって
ちっぽけな金で事業を継続できた
業突く張りで値段を叩いた
サロンでは気前がよかった
つるんでいた役人が失脚したから引かれているらしい
風穴を開けようとしたけど急ぎすぎたからさ

やっと馬車が動き出した
なんということ
馬糞を踏んだかの紳士が滑って往来にばったり
それを合図に
馬糞を塗りつける者
香水を吹きかける者
馬糞を投げつける者
花を胸ポケットに飾ってやる者
人々は入り乱れて群集となった
奴を断頭台に上げろ
彼を断頭台から守れ

騒ぎがようやく収まった
あれ、紳士はどこに消えた
人々は紳士が忽然と姿を消したのに気が付いた
あの騒ぎに乗じて命からがら逃げたのさ
踏み潰されて粉微塵になったのさ
服を着替えてこの中のどこかにいるさ
三々五々人々は散っていった

馬車馬の間抜けた鼻面が
また一段だらりと伸びた

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2009年05月20日

光の色

きみが青よと言うものだから
ぼくは海に飛び込んだ
どこまでも潜って、呼吸を忘れた

ぼくは赤だと思ったものだから
ぼくは炎に飛び込んだ
焼けて焦がれて、形を失くした

彼等が緑だと指図するものだから
ぼくは森に飛び込んだ
山猫に身体を刻まれて、血潮が飛んだ

ああ、ぼくは三度起き上がったのだ
そしていま、白色光が燈っている
たしかに、たしかに燈っている
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2009年05月18日

郷愁の村

かつてその村に愛はなかったという
憎しみもなかったという
かつてその村に富はなかったという
貧困もなかったという
かつてその村に始まりはなかったという
終わりもなかったという
かつてその村に秩序はなかったという
混沌もなかったという
かつてその村に賢者はなかったという
愚者もなかったという
かつてその村に自然はなかったという
人工もなかったという

かつてその村にあったのは
ぬくもり、めぐみ、とき、おきて、ちえ、おそれ
そして、土偶

土偶が壊れたその日から
愛と憎しみ、富と貧困、始まりと終わり
秩序と混沌、賢者と愚者、自然と人工が
流れ込んで来たという

その村を思い出すことを人は郷愁と呼ぶ
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2009年05月13日

魔法のカレー

街の中を歩いていたらどこかからいい香り
角を曲がって少し歩いたらカレーのお店
ああ、ここから漂っていたんだね
カレーはそんな距離で作るのが一番

刻んだ玉葱は飴色になるまで炒めます
肉に軽く塩胡椒して焦げ目をつけて
人参をサイコロに切ったら
コトコト、コトコト煮込みます
あとは内緒にa、b、c
そっと味覚を添えましょう

具材に火が通ったらカレー粉を加えましょう
それからサフラン、シナモン、コリアンダーも加えましょう
いい香りがとろりと溶けます
あとは秘密のl、m、n
そっと香りを添えましょう

さあさ、すっかり出来上がり
だけど鍋を上げる前に忘れてはいけません
仕上げに魔法のx、y、z
そっと深みを添えましょう

ぼくだけのa、b、c
知られちゃいけないl、m、n
ときめきのx、y、z
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2009年05月11日

蝙蝠の楽園

どちらかの法に照らして引かれたなら
静かに裁かれたに違いない

かつて獣と鳥が争った
両者一歩も譲らず一進一退
自分たちこそ優れていると
自分たちこそ楽園を築くと

さてその者は獣か鳥か
顔がねずみに似ているから獣の仲間さ
翼があるから鳥の仲間さ
どちらの誘いも断った

優劣なんてあずかり知らぬ
ぼくにはぼくの楽園がある
その領地はきみらをすべて包み込む
きみらの争い平和の始終も包み込む

あまたの尊い血が流れ
獣と鳥は和平した
卑怯と呼ばれたその者は
洞窟の中にひっそり暮らす

さてその者の楽園はその洞窟か
それなら大言壮語の嘘つきか
その者の楽園の入り口に
見事に磨き上げられた鏡があるという

見つけた者は静かに暮らす
侵そうとする者には見つからぬ
posted by はまべせいや at 04:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月06日

さてそいつが来たことを

瞬きをした次の瞬間にそいつが来たのなら
祝福しようこの一瞬間の静寂のために
アラームがなった次の瞬間にそいつが来たのなら
祝福しよう喧騒にかき消されなかった夢のために
季節がいくつか巡ったと思った次の瞬間にそいつが来たのなら
祝福しよう季節の息遣いのために
多くのものを手放したと思った次の瞬間にそいつが来たのなら
祝福しようなおかつ照らす宇宙の灯のために

突然瓦礫の山に襲われてそいつが来たのなら
祝福しようこれ以上侵すことがないということに
飢えと寒さのなかでそいつが来たのなら
祝福しようそれを飢えと寒さであると識っていることに
人々に囲まれるなかでそいつが来たのなら
祝福しようそれらの人々の涙のために
人知れずただ一人でそいつが来たのなら
祝福しよう自分に沈んでゆく時間のために

そいつの影におびやかされて
選び取ることばかりに気を取られ
豊かなときを空費する
空っぽな流れはせき止められた

そいつの正体をしかと見よ
無意味の尻尾が逃げ出してゆく
こんなにもきらめいているのだ
その一瞬間の反復

さてそいつが来たことを
ぼくは識ることができるのか

さてそいつを味わうぼくを
味わうことはできるのか
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2009年05月04日

野はシャンパンに満ち溢れ

さあ杯を持て
杯をぶつけ合わせろ
声を高らかにあげて
一気に飲み干すのだ

遥か彼方の頂を仰ぎ見て
きみはため息をつくばかり
その高みに気圧されて
足がすくんでへたり込む

流れ下る歓喜の雫を舐めながら
きみは慰めを求めるばかり
その雫に飼い馴らされて
目が眩んで視線が踊る

思い出すがいい
この塔を築いたのは誰だったのか
かつて成し遂げたという記憶
遥か見下ろしていた目眩

思い出すがいい
この頂から歓喜の雫を注いだのは誰だったのか
かつて輝いていたという記憶
確かに通っていた背骨

ディオニュソスの恵みは遍く照らし
荒野に葡萄を繁らせる
扉の閉ざされたディオニュソスの神殿に
風を通せるのはきみだけだ

―――ディオニュソスの神殿は何処
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2009年04月29日

堕ちる

星々の奏でる調べにぼくを重ねながら
エリダヌス川をさかのぼり
子三ツ星のあたりで光とともに漂って
いまは有明月に腰掛ける
調べからなる清流はぼくを慈しみ
ぼくにそのすべてを流し込む
ぼくはといえばただ受け止めるに一杯で
その感興に満たされる
溢れ出るものは清流と混じりあい
その抱擁のなすがまま
世界のどんな腰掛よりもぼくの気に入り
有明月はそれだというのに
次第に頼りなくなってゆき
朝日とともに掻き消えた
堕ちゆくぼくは分かたれて
待ち受けているのは
生活、生産、英知
愚鈍、喧騒、蒙昧

posted by はまべせいや at 04:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月27日

ぼくのうちそと

ぼくの胸には満ちている
幾百億年前にまばゆいひかりとともに
ナルシスを映したという泉
いまは彼方で明滅するひかりを映す
きみはいまでも沈み続けて
ぼくはきみを探し続けて
泉の深さはいまだはかれず

posted by はまべせいや at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月22日

白昼夢―牙

取り繕った街並みの曲がりくねった路地裏の
空気を吸ってどこまでも歩いていく
家並みがいつしかまばらになって
それでもどうやら路は続いている
郊外の空気は広々とぼくの肺を膨らませて
上着を脱いでどこまでも歩いていく
いつしかあたりに木々が増えてきて
歩いているのは森の小路
下草のとげ、木の枝に引っ掛かり
その度に身に着けているものが裂かれてく
路は次第にぬかるんできて
歩を進めるごとに深みにはまる
顔まで泥に浸かって、泥を飲み泥を吸い

どこかで、けものの唸り声
鮮血の匂い、骨ごと獲物を噛み砕く音
身体中に熱いものが脈々廻る
爆発、疾走
確かに見たものと言えば
頭蓋を噛み砕かれた二頭の小さなけもの
首に爪の跡の生々しい一頭の雌
まぶたに残して、泥の中に沈み込んでいった

気が付けば大脳皮質の表層の襞のあたりに突っ伏していた
植え込みの花の香りに混ざって、かすかに鮮血の匂い
取り繕った街並みの曲がりくねった路地裏の
空気を吸ってぼくは歩くことをゆるされるのか
posted by はまべせいや at 04:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月20日

飛翔の、とき

まだかな、まだだよ
ひかりがまだ、ゆらいでいるよ
まだかな、まだだよ
くさがまだ、おしゃべりしているよ
まだかな、まだだよ
ぬくみがまだ、ただよっているよ
まだかな、ぼくもういくよ
ひかりもとまった
くさもだまった
ぬくみもはだに、ぴたりととまった
まだだよ、まったほうがいいよ
このようすは、ながくない
えぃ、ぼくもういくよ
ぼくも、ぼくも・・・
ぼくも

まだかな、ひかりがとまった
まだかな、くさがだまった
まだかな、ぬくみがとまった
このようすは
さっきから、よんかいめ
じゅうぶんに、ながいはず
えぃ

水溜りの上に飛ぶ小さな命
水面には羽化に失敗した仲間たち

水面で羽化する間に波に襲われると
その場で溺れてしまうとぼくは聞く
posted by はまべせいや at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月15日

宇宙に潮が満ちるとき

<切り取ってそれを感じれば笑みになる
すべてでそれを観じれば涙になる>

一条の光
灰色の雲の層から紡ぎ出て
一輪の花、浮き上がる
(ああ、こんなところに)
近寄って覗き込む
ふと背中に感じる温かさ
(ああ、そうなのか)
やがて宇宙に潮が満ち
頬を伝う一条の光となった
posted by はまべせいや at 04:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月13日

もしもきみがパステルだったら

(きみは悪さがゆえに黒いのではなく、可愛らしさがゆえに黒いのか)

きみが
地面に降りてちょんちょん跳んだり
首と尾羽をふりふりして歩いたり
地面におちた木の実を銜えたり突いたり
木の枝に止まって小首を傾げるようにながめたり
かぁ、とひと声ふた声発して
ただ一羽夕焼け空に消えていく
それだけの存在だったら
もっと人から愛されように

ゆるんでいけば、とけだして
とがったかどが、まるくなる
まあるくなって、ころがって
ゆらゆらゆれる、ゆりかごの
ひかりぬくもり、おもいだす

それだというのに
朝の公園のごみ置き場に群れを成し
互いにせわしく鳴きながら
道行く人をじっと見据える
それでないと
きみは生きていけないというのか
posted by はまべせいや at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月08日

大地

散る花びらを受け止めて
薄赤の白に大地は埋め尽くされる
秋には散る落ち葉を受け止めて
赤や黄色や褐色に埋め尽くされていた
受け止めて、受け止めて
大地はすべての色を受け止める
posted by はまべせいや at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月06日

ある朝の散歩道

いつも通りの慣れた散歩道。木造の古びたアパートが建っていた。そのアパートの住民であろう、老婆が一段一段確かめるように錆びた鉄の階段を昇っていくのを何度か見かけた。その老婆と同じくらいに疲れた様子の木造アパート。そのアパートの建っていたところに瓦礫の山ができていた。山の上にはパワーショベルが。共同で使っていた場所であろうか。残された壁に寄り添って、妙に白々と洗面器が残っていた。小さな居酒屋のトイレによくあるような洗面器である。折れ曲がった老婆の腰を思い出した。あの老婆はどこに行ったのか。あの老婆の様々な思いを包み込んでいた、アパートの姿は今はない。
アパートの前の路地を曲がって目に入ったのは、淡くけぶるピンク色。昼こそ上着を脱ぎたくなるが、早朝の時分は上着も離せず指先も冷たい。生命の輝き。心もぽっと薄桜に染まる。凛とした寒梅もいいが、心を溶かす桜もいい。ここしばらくの間とどまった寒気のおかげで満開の桜を感慨もって見ることができた。花の命は短く、はらはらと潔く散っていく。日本人の死生観にあっているという。生と死と、表裏一体となって散っていく、とはどういうことか。
その桜は数年前に建てられたマンションの庭に咲く。堂々とそびえ建って、優に百世帯以上は入るだろう。外壁は美しく、エントランスもなかなか洒落ている。これからも長い間に渡って、多くの人々の生活の場となり、様々な思いを包み込んでいくことだろう。
アパートはなく、老婆はいない。桜の花は今が盛りで、やがて散る。洒落たマンションが建ち、多くの人が住んでいる。桜の花が、それらをひとつに結び付ける。さて、かりそめの姿であるとはどういうことか。形を失うものとはどういうことか。私の心に何かを語りかける、それらの“もの”たち。私もやがては形を失う。見ることもなければ、見られることもなくなる。宇宙はただそれを包み込んで観ているだけか。
posted by はまべせいや at 04:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月01日

にじゅうよいろ

重いものを放り投げるかのように荷物を置いた音
やたらと咳払いを交えてとうとうと主張する声
車が通り過ぎるために人を路肩に寄せる音
安普請のアパートに毎夜聞こえる近所の飲み屋からカラオケの声
交差点に止まる車から大音量の音楽
満員電車、誰かの胸ポケットで突然響きだしたアラーム音
酒を飲む、やたら舌打ちをする音
公園に敷かれたゴザの上の小型オーディオから流れる音楽
上映中にセロハンの包装を開ける音
勢いよく閉じられた扉の響く音
カウンターに叩きつけるようにコップを置く音
ヘッドホンから洩れるリズムの音

身体のどこで音を聞く

寝床に響く、あさげの準備に包丁がまな板を叩く音
空気を混ぜあいながらゆっくりと交わす声
ほうきが畳を撫でる音
引き払う部屋、最後に鍵を閉じる音
導いて包み込むような傘を叩く音
軒先からに水滴が落ちた音
木の葉がそよいで、ささやきあう音
壁画に囲まれた部屋にただ空調の音
夕焼け空に染み入る鐘の音
公園の樹に引っ掛かった有明の月が照らす音
時を忘れたかのように甲羅干ししている亀の声
夕日が水平線に触れた瞬間、水煙が上がる音

身体のどこで音を聞く
posted by はまべせいや at 04:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月30日

浜辺の風景

潮が去った浜辺には
ざわ、ざわ、ざわ、ざわ
ちい、ちい、ちい、ちい
命の営みが繰り広がって
再び潮が満たした浜辺には
ざざあん、ざざあん
ひゅうる、ひゅうる
地球の営みが残される
光が変り、雲が変り、季節が変って
それらの音も移ろってゆく
潮の満ち干はこの浜辺に幾度巡ってきたか
二足が訪れるようになったのは最近のこと
初めは裸で海に入っていた
次第に布をまとうようになり
色や形もある種の傾向をもって移ろってゆく
二足の訪れる間に潮の満ち干は幾度巡るか

浜辺に佇む岩ひとつ
礫になるまでに潮の満ち干は幾度巡るか
posted by はまべせいや at 04:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月25日

きみを聞く

佇む空気は
高い空に絹雲を臨む大気のように
透き通って
ぼくの呼吸が
ほんの微かに揺らしている
(あるいはきみも、
ぼくよりもまだ微かに揺らしているか)

きみを聞く
耳を澄まして、じっと聞く
全体、丸みを帯びて
欠けたところが、尖っている
とりどりの鉱物が飾っているけど
薄緑がかった灰白色が勝っているか
使い込んだ鞄のように
滑らかに輝いて、またがさついて
漂う埃は
きみを滑って、また引っかかって―――
そんな姿を瞼に焼き付けて
耳を研ぎ澄ませる

深い地底に眠っていたきみは
一気に灰となって大空に飛んだ
猛烈な圧力できみは再び地中で固められて
何かの拍子に突き上げられて
風と水とに切り出されて転がった
それから清流に洗われ続け
ある日突然砕かれた

佇む空気を
ほんの微かに揺らしているぼくの呼吸は
きみとの間に満たされて
(あるいはきみの呼吸も、
ぼくよりもまだ微かに満たしているか)
ひとかけらの石が、物語りを始めた



posted by はまべせいや at 04:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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