2010年07月08日

黒いしみ

目覚めたものの、なんとなく体が重かった。布団の上に再び横たわると、大の字になってまぶたを閉じた。重いまぶたを再度こじ開けたときには、天井のしみがはっきりと見分けられるほど明るくなっていた。スタンドの明かりを頼りに、眠れぬ夜に視線でなぞった見慣れた天井のしみ。その一点に見慣れない真っ黒なしみができていた。そう思ったらそのしみが天井を動き始めた。そして考える間もなくそのしみがこちらに向かって落ちてきた。手で払いのけようとすると、まるであざ笑うかのようにまた天井めがけて帰っていった。ぶぅぅんという音を残して。そうか蝿か。いつの間にか蝿が部屋に入り込んでいたのか。
それにしても重い。まぶたも、頭も、手足も。蝿を払いのけようとして顔を背けて空振りをして、そのままの形で眠っていたようだった。次に目を開けたときは西日が部屋に射していた。オレンジ色に染められた天井に、黒々とあの蝿がまだ止まっていた。えぃ、なんだあいつは。人をあざ笑うみたいに。癇癪を起こして叩いてやろうと立ち上がろうとした、ところが体を支えようとした腕がガクリときてそのまま布団に倒れこんだ。相も変わらず体は重いのだが癇癪を起こしたおかげでどうやら意識が高ぶって目はさえてきた。とは言え夢か現か分からぬ感覚で、手足は相変わらず重いまま。
―ずっと蝿を眺めていた。奴はあれ以来一度も飛ぶことはなく、天井をひとしきり這いずり回ったと思ったら、ずっと動きを止めて。羽をもぞもぞ動かしたり、手足で顔を洗うようなそぶりをしたり。それを眺める以外には、思考も手足も働かなかった。夜の間は目がさえて蝿を眺め、明け方になるとまぶたが重くなり、天井がオレンジ色に染められるころになって目が覚めた。
蝿を眺める夜を何度過ごしたか、外が白み始めてきた。今日は何日だっけ。やっとそんなことに頭が回るようになってきた。枕元のラジオの電源をオンにする。音楽の後にDJの声が入った「今年は空梅雨で、昨夜の七夕も・・・」。そうかするともう8日になるのか・・・8日といえば、なにかあったような・・・。あっ思い出した。彼が帰省する日だ。預かっていた彼のアルバイト代を渡さなければ。
耳の中がもぞもぞした。ぶぅぅんという音。真っ黒な蝿が窓から飛び出していった。唖然として蝿が消えていった窓の方角を凝視していた。そのぼくの耳に入ったのは、「おはようございます。7月5日月曜日午前6時のニュースの時間です。」というラジオからの声。

posted by はまべせいや at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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