2010年06月30日

徹夜麻雀後始末

まったく。やってられやしない。そもそもあそこで上がっておけばよかったんだ。安いからと思って当りを見逃したのが運のつき。次の局で一発逆転の倍満を聴牌って、意気揚々と三枚目の風牌を切ったらつまらない七対子なんかに当てちゃって。次の半荘は焼き鳥の大負け食らって。さて帰ろうかと思って案の定雨が降っていたまでは仕方がないが、大風で傘の骨が折れてずぶ濡れになって部屋にたどり着いて。震える身体を拭いてなんとか眠りに入ったと思ったら、「あんたが野良猫を飼ってたんだね。」大家が怒鳴り込んできた。「そんなの知らない。別の部屋でえさをやってた猫だ。一度だけ夜戸口のところであんまりうるさく鳴くから部屋に入れたやっただけだ。」いくらそう説明しても頑として聞かず、延々一時間も説教された。やっと熟睡して、目が覚めたらもう暮だ。やれやれ、今日も太陽を見なかった。
―講義日程はスカスカだし卒論の実験は終わったし。「小人閑居して」とはよく言ったもんだ―
今夜は麻雀の誘いが来る前にどこかで憂さ晴らしに一杯飲もう。そう思って外に出た。

安酒場でちょいと引っ掛けて。そこそこいい気分になったけど。でもまだ帰るには早い。麻雀の面子集めの佳境の時間だ。少し遠回りして帰ろうか。そう思っていつもと違う道をぶらぶらと歩いていた。川沿いまで来ると何軒かプレハブ小屋が並んでいて、それぞれ酒の看板を出していた。そのプレハブ小屋とプレハブ小屋の隙間に、どうやって建てつけたのか木造りの扉があった。プレハブ小屋の酒場の並びで気安い感じがしたのと、その重そうな扉に引かれたのとで、一杯加減も手伝って考える前に扉を開けていた。

酒場かなと思って入ったのだが、ずいぶん様子が変わっていた。小さな椅子が向かい合って置いてあるのが影の形でなんとなく分かる。他には何もない。なぁんだと思って引き返そうとしたら「せっかく来たのに帰るというのかい。」と暗がりの奥からしゃがれ声。よく見るとと老人が立っていた。老人は向かい合わせの椅子の一方に座ると「せっかくじゃから座っていきなさい。わしにはきみのすべてが見えるんじゃ。」もう一度言葉を繰り返してもう片方の椅子を指した。こんな爺さんと話したってしょうがないじゃないかと思ったが、『ぼくのすべてが見える』だなんて、おかしなことを言う爺さんだと思って少し気になった。ぼくが椅子に座ると爺さんはこう言った。「きみがわしと出会ったのは、運命じゃろうか。宿命じゃろうか。」
―何を言ってるんだ。この爺さん。運命だとか宿命だとか。面倒なことに巻き込まれなければいいけど。まあこんなところに来てしまったのは運と言っていいのかな。でも運命なんてほどのことでもないよな。もっともこの爺さんが何やらとんでもないことを仕掛けてきて、後々に影響すれば運命かもしれないけど。でも運命と宿命とはどう違うのかな。―
「偶然ここに来たけどそれは何かの巡り合わせで、運命というほどのことではないさ。偶然ということなら考えられるけど、あらかじめ自分の行く末が決められているということが運命だとしたらそんな運命なんて信じないよ。だからあんたに出会ったのは運命ではないさ。それに宿命ってのはなんだい。単に運命という言葉を置き換えただけかい。そんなことも知ったこっちゃないさ。」ぼくはこう言った。

「ほほほ、さすがにお若いだけあって元気じゃな。」老人は懐から透明な玉を取り出した。よく占い師が使う水晶玉のようなものだが手のひらにすっぽりと納まるくらいの小さな玉だ。「ほれっここに。この玉にきみのすべてが映るのじゃ。きみは運命を信じないと言った。なかなか勇ましいな。じゃからこの玉はこうしよう。」そう言うと老人は玉を天井めがけて放り投げた。と思ったら天井にぶつかる気配もなくそのまま消えてしまった。

夜風が頬を撫でていた。遠くの街頭が薄明るく照らし、爺さんもろとも辺りの建物は消えていた。夜空の一点を凝視して、ぼくは河原の石にぽつねんと腰かけていた。
どこか遠くで声がした「きみは必ずあの玉に出会う。その意味をよく考えることじゃ。運命に翻弄されるか、運命と決別するか、さてきみはどちらを選ぶじゃろうかね。」

posted by はまべせいや at 04:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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