2009年12月23日

饒舌なとき

今日の江川はどうだったとか、ママの首筋が見え隠れするところがどうだとか。不沈空母がどうだとか、昨日の彼女はどうだったとか。とりとめもなく話題を変えて盛り上がっていたカウンター。ぼくはと言えばもうよせばいいのにお銚子を追加して。そんなさなかに背中の扉がガラッと開いた。さて、どこかで見たこともあるような中年男。入ってきた瞬間に妙に陰気っぽい奴だと思った。愛想の一つも取り付くしまもなく。カウンターの隅につくとただ一言、「冷酒」。こいつは言葉を持っているのか、酒は盛り上がらないと。そう心のなかでつぶやきながら、この陰気な感じの中年を話題に取り込もうとしたのだが。立て続けに冷酒を三杯飲んで、「お勘定」と無愛想に言ってそれを済ますとさっさと帰ってしまった。
扉を開けると一杯のカウンターの片隅が何とか一つ開いていた。なにやらの談義に講じているようだが、何の脈絡もなくあっち飛びとびこっち飛び。それは彼らの佇まい、話しぶりから明白なことだった。なかでも最も軽薄そうな学生風がしきりに話を振ってくる。馬鹿な、言葉はもっと惜しむものだ。酒はもっと大切にするものだ。そう心のなかでつぶやきながら、仕方なく立て続けに冷酒を三杯あおると、やにわに勘定を済まして外に出た。夜風に吹かれて夜空を見上げた。どこかの生垣からか、漂う香りに目を瞑る―懐かしい香り。そうだ、思い出した。あの学生風は“あいつ”だったのだ。

posted by はまべせいや at 05:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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