2009年11月16日

祖父の工房

彫り当てるのだと、ぼくは聞いた
はじめはおぼろげながらに形が見えて
彫っている間に確かな形が瞬く間に見えたと、ぼくは聞いた
なるほど工房―といっても小さな離れだが―から
はじめは鉈を振るう音、次に鋸で挽く音
その次にはのみを木槌で小突く音が聞こえた

祖父は工房にぼくを寄せ付けなかった
祖父が動き出す、後を追いかける
散歩のときはぼくがついてくるがまま
気ままに先を歩いていた
でも工房に入るときは振り返る
そしてキッと厳しい目でぼくを見るのだった
そんなことが二度三度
ぼくは工房に入ることを諦めた

祖父が亡くなったのはあっという間だった
ぼくが学校に出かける前、一緒に朝餉を食べたというのに
学校から帰ったら、もう慌しく通夜の準備をしていた
心筋梗塞と、大人は言ってた

葬式の日のこと、その日のことで一番覚えているのは
小柄な祖父には似つかわしくない大きな棺おけ
祖父と並んで像が横たわっていた
手はあたかもグローブを嵌めているように見えるほど未完成だった

だけどぼくには見えたのだ
今のぼくならこう言うだろう
聖母像とも菩薩像とも、ヴィーナス像とも土偶ともつかない
なんとも不思議な像だけど
確かに確かに柔和で穏やかで香りがあった

そのときのぼくはこう思った
きめ細かに掘り込まれた祖父の顔
夕餉の準備時に母を煩わせてべそをかいている
そんなぼくに囲炉裏端でそっと飴玉を出してくれた
祖父の笑顔

posted by はまべせいや at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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