2010年03月31日

りんごに見える

ぶらりぶらりと散歩の帰り。もうかなり暗くなり始めていた。昼でも薄暗い高架の下に通りかかった。目の前を黒い影が横切るのに気が付いたのは遅かった。肩と肩が触れ合った。「あっ、すいません。」とぼくが言うのと、「いや、失敬。お互いに気を付けないと。よく見ないとね。」と相手が言うのとほとんど同時だった。そして相手はさらに言葉を継いだ。「まあ、こう肩が触れ合ったのも何かの縁だ。このりんごを君に差し上げよう。今度逢ったら、このりんごを目の前にして目を凝らして見えたもの、目を瞑って見えたものを教えてくれないかい。」そう一方的に言うと唖然としているぼくに一個のりんごを押し付けてそのまま薄暗い闇の中に消えてしまった。
そのりんごは蜜に満たされて、その蜜が染み出して。その後は萎みだして、今ではすっかりしわくちゃになって干からびて書棚の皿の上に置いてある。あのとき逢った黒い影氏とはあれ以来まったく逢わない。でも彼の言葉の通り、思い出してはりんごを目の前にして目を凝らしたり、目を瞑ったり。今では目を凝らして見えるもの、目を瞑って見えるものが確かにあるようだと。そんなことを考えている。そして黒い影氏には、もうそのことを話したような気がしている。

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2010年03月29日

ぷかぷか

水と空気の間に寝そべって
ゆらりゆられつ、いきつもどりつ
どっちつかずにまどろんで、失った脊髄
ふわっと水が持ち上がり
まだ手足があったことに、はっとした

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2010年03月27日

プチトマト

夕陽を四つ串刺しにして
ミルキーウェイを頂いて
炭火にかざして頬張れば
ほどよいめまいよいのよい
まわるまわるよからくりこ

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2010年03月24日

一人遊びの秘密基地

友達はとうに帰ってしまった。秘密基地の土管に残って一人遊びの夕暮れ時。土管が、ぼぉぅぅんと鳴りだした。風が吹いてきたのか。でもこの内なら安心。そう思っていると先程からぼぉぅぅんという音に「きみは今、内にいるか。それとも外にいるか。」という声が混じっているのに気が付いた。変な声だな。本当に妖怪が現れたのかな。少し怖くなった。ぼくは怖さを振り切るように「そんなの土管の内にいるに決まってるじゃないか。」そう大声で叫んだ。するといきなり強い風がびゅうと吹き込んで、その音に混じって「ほんとうにそうかな。ほんとうにそうかな。」という声が聞こえた。本当に怖くなって、のどがからからになった。でもぼくは勇気を振り絞って「そんなの知るもんか。さっさと消えうせろ。」と叫んだ。すると風が嘘のように止んだ。恐る恐る土管から出ると星が二つ三つと輝く時間になっていた。ぼくは一目散に民家の明かり目指して走っていった。

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2010年03月22日

ごろごろぴゅぅ

ごろごろごろごろ
大きな岩が転がりだした
たくさんたくさん転がりだした
がっちんごっちんぶつかって
ざりざりざりざり
石の流れになってきた
押し合い圧し合い流れていって
かっちんこっちんぶつかって
さらさらさらさら
砂の流れになってきた
ぴゅぅとひと吹き風が舞い
なにも残らず消えちゃった

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2010年03月20日

自己陶酔

自分は“なにか”が出来るはず。その“なにか”の高さに酔うだけのことならば、居酒屋のカウンターでやたらに人に話しかけてくだを巻いている酔っ払いと同じことだ。彼はさて、ほんとうに自分を愛するということを知っているのだろうか。その“なにか”は分からないながらも、その“高さ”に一段一段と近づくにはどうしたらよいのか。彼はそのあたりを具体的な行動にする必要がある。彼はほんとうの意味での“高さ”への到達ということに気付くはずだ。

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2010年03月17日

暮色のときの終わるころ

「きれいね」彼女がささやいた。「きれいだ」ぼくがささやいた。暮色のときも終わろうという浜辺で、二人同時にささやいた。お互いにっこりと微笑んで、ぼくはこのようなときがずっと続くものだと思った。しかしこのときを境にお互いどちらからともなく離れて、会う回数が次第に減っていった。今では所在を知る手筈すら残っていない。いま思い出すのは、彼女はおぼろ月の光を見てということ。ぼくは対岸のイルミネーションを見ていたということ。

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2010年03月15日

ひかりのけしき

ひかりのたま、に降り注ぐ
こえ、こえ、こえ

目が眩む
突き刺さるようだ
開けていられない
きれいなひかり
水滴が揺れてるみたい
とりどりに輝いている
身体が熱い
内にも火がついたようだ
燃えていく
ほんのり包まれて
縁側に干した布団の上のよう
まどろみに落ちてゆく

やがてそれらは無数の叫びと気配に変わって
入り混じったまま
ひかりのたま、に降り注ぐ

叫びはひかりのたまのなかでひとしきり悶えて
やがて耐え切れずに虚空へと飛び立ってゆく

気配はひかりのたまのなかで自ら輝き始め
やがてぜんたいとなってゆく

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2010年03月13日

評価が欲しいとき

評価されれば素直に嬉しい。しかし、そこには大きな危険をはらんでいる。評価を渇望するときはどういうときか。よく点検する必要がある。

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2010年03月10日

愚者の喫茶店

窓から差し込む日の光は、いつも起きる時間よりも少し高くなり、眩しさを増しているようだった。自宅の布団の中なのは確かだが、まだ頭が回らない。今日は目蓋がすっきりと開くまで寝ていられるはず。重い目蓋を再び閉じる。布団を被り、寝返りを二度三度。何やら頭がかゆい。頭を掻いて、もう一度寝返り。えいっ。寝られない。こういうときはいっそのこと起きてしまって、陽気に当たればまた公園のベンチに座って眠気が催してくるものだ。そう思い立って、布団を出て着替えると上着を引っ掛けて外に出た。
穏やかに晴れ渡った休日の朝。日差しはまさに身体に染み込んで歩きながらにして、再び酔いと眠りに誘い込むようにぼくを包み込んだ。いつもの癖で上着のポケットの中身を確認するように手を差し込んでみる。ふむ。何か固くて四角くてざらざらしたものが入っている。カードのようだな。そう思って取り出してみる。それはまさしく使い古して擦り切れた厚紙のカードだった。若者が太陽を背に歩いている。上を向いているのだが一歩先は崖である。足元では犬が追いかけている。裏を見ると幾何学形に図案した蜘蛛が赤と黒で規則正しく並んでいる。そうか、きっとあのときのカードだな。でもどうしてぼくの上着のポケットなんぞに入っているのだろう。
昨晩は“いい加減”に飲んでいた。その帰り道に見つけたのが、珈琲の看板。そう言うよりは歩道に飛び出した古い木製の看板にしたたか肩をぶつけたのだった。癪にさわって拳固でぶん殴ろうとも思ったが、自分の方が痛い思いをしそうなので思いとどまった。肩の痛みが消えていくのを待ちながら、ふむ。コーヒーを飲んで帰るのも悪くはないな。そう思ってその店の扉を開けた。
扉を開けると床も壁もすべて木造りで二畳ほどもない空間を、三席ほどのこれまた木造りのカウンターがキッチンと客席を分けていた。明かりはカウンターに置かれたランプがあるきりだった。薄暗いカウンターの向こうから、「いらっしゃいませ。でも残念、もう閉店です。」という高い、でも落ち着いた感じの声。「えっ、閉店なの。おたくの看板のせいで肩を痛めたんだよ。ちょっとさあ、酔い覚ましに一杯くらい飲ませてよ。」ぼくは言った。「あら、それはお気の毒に。大きなお怪我はなさいませんでした。お詫びに一杯ごちそういたします。でも、その間私の占いに少し付き合ってくださいませんか。」ぼくがうなずくのを確認してコーヒーをたて始めた。
彼女の占いはカードを使うものだった。カードを切ってぼくの前に並べる。その指はしなやかで瑞々しく若い印象を受けた。頭の上から黒い布をすっぽりと被っている。覗いて見える顔には皺が刻まれているようにも見える。並べ終えると、「あなたは光を行くでもない、闇を行くでもない。あなたは永遠に留まるでもない、瞬時に消えるでもない。あなたは幸福になるでもない、不幸になるでもない。そう出ています。」彼女はそう言った。神妙な面持ちで彼女の言葉を聞いたが、なんだそれは、それでは何にも言ってないと同じことじゃないか、心の中ではそんなことを思った。
きっとあのときのカードだな。もらったわけでもないし、こんなもの取って来るわけもない。なぜぼくの上着のポケットに入っているのだろう。まあ気味が悪いから返したほうがいいな。一枚でもカードがなくなると占い遊びができなくて彼女も困るだろう。そう思って、喫茶店を目指した。なんのことはない。酒を飲んだいつもの帰り道。いまいましい看板がいつの間にかできていたんだ。ところが昨晩最後に酒を飲んだ店と家の間をいくら探してもいまいましい看板は見当たらない。迷い込みそうな路地も探してみたが一向見当たらない。午前中を歩き回って潰して、二日酔いも眠気もどこかに吹き飛んでしまった。

その後、一ヶ月くらいの間は上着のポケットに例のカードを入れて、飲んだ帰りや散歩の際にはいまいましい看板を探したものだが遂に見つからず。今では、以前紅蜘蛛便で来たぼく気付のQくんへの荷物の上に投げ出されている。

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2010年03月08日

真夜中のリトグラフ

それは、うさぎのしっぽのわたぼうし
それは、夕陽の照らすさざ波
それは、母のつくったアップルパイ
きみはただ壁にかかっているだけだのに
真夜中のリトグラフ
このときの、このぼくにしか耳にできない奏でを
どうして惜しげもなく響かせる
きみの“き”は、ぼくの“ぼ”に
響きに、包まれて満たされて

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2010年03月06日

前後不覚

血流が緩やかになれば人はめまいを覚える。血流が速くなっても人はめまいを覚える。めまいに身を任せれば酔いが回り、酔いが回れば前後を失う。人は横たわってまぶたを閉じることによっても、長い距離を走ることによっても前後不覚に陥る。人は放心しても、思考しても前後不覚に陥る。人はいとも簡単に前後不覚に陥るが、前後不覚ということを制御することがなかなか難しい。

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2010年03月03日

かげろう

ぼくはそれを見て、飽くことを知らずにずっと歌っていた。歌といっても単なる唸り声。濡れ縁は木漏れ日に揺れるかすかな陽だまり。でも確かに確かに眩しくて温かで、きっとそのときがずっと続くものだと思っていた。「あらっ、ここで遊んでいたのね。それは、かぁがぁみぃっ、か・が・み。かがみよ。」この声を聞いてから、ぼくのお気に入りの遊びが変わった。「これは」から始まる言葉の積み木遊びに。

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2010年03月01日

あなたはぼくを何と呼ぶ

せわしくせわしく腕でかき分けて
脚を、文字通りにばたつかせて
波の間に間に、あと少しもう少し

浸水する水を、来る日も来る日もかいていた
かい出す間に少しでも食べ物を流し込めればましな方
腹をすかせて舟べりに突っ伏して
束の間休んだと思えば、水がもう胸のところまで

あと少しもう少し

ぼくがやったことといえば
舟の穴をほんの少し大きくしたということ

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