2009年12月29日

呪いの時間

砂漠をさ迷っていた。隊商からはぐれてただ一人途方にくれながら歩いていた。容赦ない日差しを何と避けられないかと思っていたら、なんと突然日陰に覆われた。ありがたいと思ったのも束の間。頭の真上から声がとどろいた。「朝は四つ足、昼は二本足、夕は三本足。それはなんだ。答えられなければ一思いに飲み込んでやる。」ぼくは震えながらも何とか声を振り絞った。「それは人間だ。」するとその大きなライオンの化け物は言った。「愚か者め。一思いに飲み込まれればよかったものを。おまえは『部分のようでいて全体であり、全体のようでいて、部分である』そういうようなものが答えとなるような謎を千個つくるのだ。それまでは『アキレスと亀』の時間に閉じ込められているがよい。」
目が覚めた。のどはからから。四肢と言わず、身体全体疲労困憊。寝汗をびっしょりかいて。化け物に逢ったのがとても夢とは思えなかった。けれどもいつもの寝床、いつもの部屋。昨夜寝る前と何一つ変わった様子はない。そしていつもの時間が始まった。はじめはそう思っていたのだが。その朝を境に一日の時間が次第に短くなって、そして慌しくなっていくような感じがする。『星の王子さま』の点灯夫のように。

posted by はまべせいや at 19:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月28日

憧れの輝き

川沿いを歩いていた
瑠璃色の輝きがちらちらと
その輝きに誘われて
気が付いたときは現地人の小屋に横たわっていた
生還できたのだ
あの輝きを追って人里近くにたどり着いたらしい
幻の遺跡を求めて遠い異国の原生林をさ迷っていた
ああ、もう一度あの輝きに触れたいものだ
遺跡のことはどこかにおいて
一目散に駆け寄って手の平に輝かせてみたい
体力が戻ったぼくは輝きをさがした

このあたりではごくありふれた蝶らしい
というのは瑠璃色の輝きを興奮して話すぼくの言葉に
現地人たちはあの蝶のことかと
さして興味も示さなかったことで察しが着いた

川沿いを歩いてしばらく
瑠璃色に瞬く輝きにいともたやすく遭遇した
ひらひらと集まって群れとなり
地上の一点を目指して舞い降りているのが分かった
大きくけれどもゆっくりと静かに息を吸い込んだ
そして一目散に駆け寄った
輝きが一斉に舞い上がる
ぼくを見下ろす無数の褐色の蛇の目模様
地上に残ったのは腐乱した動物の死骸

それでも求める、それでも求める
胸の奥で言葉が早鐘のように響き渡った

posted by はまべせいや at 04:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月26日

愛すること、理解すること

分析するということは愛するということとは正反対の行為であるかもしれない。愛していないからこそ、さまざまに分析して人の心を読もうとする。無条件に愛しているからこそ、分析することなく人の心が理解できる。
「罪と罰」のラスコーリニコフの心を、なぜプリヘーリヤが、なぜソーニャが理解できたのか。それはプリヘーリヤが母だったからであり、ソーニャがもっと大きな意味での母の要素をもっていたからだ。そうした理解の仕方に是非は多かろうが、案外的を外してはいないものだと思う。

posted by はまべせいや at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 「K氏」をたどる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月23日

饒舌なとき

今日の江川はどうだったとか、ママの首筋が見え隠れするところがどうだとか。不沈空母がどうだとか、昨日の彼女はどうだったとか。とりとめもなく話題を変えて盛り上がっていたカウンター。ぼくはと言えばもうよせばいいのにお銚子を追加して。そんなさなかに背中の扉がガラッと開いた。さて、どこかで見たこともあるような中年男。入ってきた瞬間に妙に陰気っぽい奴だと思った。愛想の一つも取り付くしまもなく。カウンターの隅につくとただ一言、「冷酒」。こいつは言葉を持っているのか、酒は盛り上がらないと。そう心のなかでつぶやきながら、この陰気な感じの中年を話題に取り込もうとしたのだが。立て続けに冷酒を三杯飲んで、「お勘定」と無愛想に言ってそれを済ますとさっさと帰ってしまった。
扉を開けると一杯のカウンターの片隅が何とか一つ開いていた。なにやらの談義に講じているようだが、何の脈絡もなくあっち飛びとびこっち飛び。それは彼らの佇まい、話しぶりから明白なことだった。なかでも最も軽薄そうな学生風がしきりに話を振ってくる。馬鹿な、言葉はもっと惜しむものだ。酒はもっと大切にするものだ。そう心のなかでつぶやきながら、仕方なく立て続けに冷酒を三杯あおると、やにわに勘定を済まして外に出た。夜風に吹かれて夜空を見上げた。どこかの生垣からか、漂う香りに目を瞑る―懐かしい香り。そうだ、思い出した。あの学生風は“あいつ”だったのだ。

posted by はまべせいや at 05:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月21日

絶壁にて

ずっと むこう
ずっと おく
導かれて たどった みち
振り返れば
すくむ足 くらむ目
絶壁の彼方
ひと ひと ひと ひと
の波が目指すのは こちら
熱いもの
ずっと おく
ずっと むこう
むしろ
とびこみたいのに

posted by はまべせいや at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月19日

根来(塗り)

こすれたということ、ぶつかったということ
傷ついたということ、刻まれたということ
それらすべてをきみと感じるということ
目が舌感覚に置き換わるということ
そよりとも風吹かぬ湖水に胸が満たされるということ

posted by はまべせいや at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ”きみ”とのちいさなものがたり | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月16日

騒乱

ののしり合い、ひしめき合い。先を争って、押しのけて。宝のありかを目指して殺到する若者達。なぜ、こんなことに。皆ぼくの同級生。はじめは宝の謎を解こうと集まったはずなのに。同級生たちの殺到する流れからやっと逃れて。そう思ったのも束の間、腕を取られて流れに引き戻される。後ろから押されてよろめいて、ついに思い切り突き飛ばされた。気が付いたら舞台の下。そうだ、皆忘れているんだ。舞台の上にいるということを。舞台に登っているうちに信じてしまったのだろうか。謎であるはずの宝の存在を。
「おい、寝るなよ。」声をかけられてはっとした。学園祭の出し物を決める長い話し合いの間に、どうやら居眠りをしていたのだった。

posted by はまべせいや at 04:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月14日

青い薔薇咲いた

まっすぐだと思っていたのに
すこうしずつ曲がってた
おおきなおおきな丸だと思っていたのに
すこうしずつ曲がりかたが大きくなってた
落ちこんでいたんだね、まんなかに
落ちこんで落ちこんで
ほのかにほのかに、と・も・る、のは
広大な空間に咲いた青い薔薇
見つめている、見つめている

posted by はまべせいや at 04:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月12日

濡れずに渡る

大海を船で渡るということは悧巧なことだ。だがそれに慣れきった人の相当部分は、“取り戻す”ことを忘れた人たちだ。薄っぺらい。少しの風で舞い上がりそうだ。

posted by はまべせいや at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 「K氏」をたどる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月09日

放りっぱなしの荷物

トントンと扉を叩く音。そして「黒さん、紅蜘蛛便です。黒さん。」と声。えっ、紅蜘蛛便だって、そんなのぼくに来ることなんてあるのかな。そんなことを思いながら、のろのろと起き上がる。今度はドンドンと扉を叩く音。そして「黒さん。黒さんの部屋ですね。紅蜘蛛便です。」と少しトーンが上がった声。やっぱり間違いなさそうだなと思いながら「はい、今行きます。」と返事する。
扉を開けると紅蜘蛛便の配達手がB4判のコピー用紙の束ほどの荷物と受取書を持って立っていた。なるほど、包みには黒様とある。珍しいことがあるものだなと思いながら、受領書に判を押す。「ありがとうございました。」と配達手が言ったのと、あらためて見た受取人のおかしいことに気が付いたのは同時だった。「あっ、ちょっと待って。」とぼくが言ったときは、背中を向けて配達手は車に駆けていくところだった。「ぼくはあなたに荷物をお届けするまでが仕事です。後はあなたが届けてください。」配達手はそう言葉を残して、車に乗り込んでさっさと行ってしまった。
B4判のコピー用紙の束ほどとは言ったが、荷物すべてが紙というほどの重みではない。かといってやたら大きい箱に文庫本二冊というほどの重みでもない。つま先に落とせば思わず「痛っ」と声を洩らすだろうことは想像できる重み。ワレモノ注意とある。少し振ってみるが内部はきっちりと固定されているのか、均一なのか。カサリとも音はしない。
その荷物の受取人には大きく「黒様」とあり、その右下に小さく「気付Qくんへ」とある。Qくんとは誰なのか?ワレモノとはどういうワレモノか?開けることもままならず、行く当てのない荷物がずっと放りっぱなしになっている。

posted by はまべせいや at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月07日

蟹の身をほぐすとき

このただ(無料)の餃子が
帰るときには高くついてるんだよな
爺さんが言う
はは、違いない、笑顔を交わす
頬張った餃子
目の前を疾走する選手たち
ビールがのどを突き抜ける
記念競輪の競技場

マーケットへの配慮が足りんですな
おかげで大損だよ
退任役員が言う
なるほど、そうですか、杯を見つめながらうなずく
蟹の身をほぐしにかかる
言葉を継ぐ退任役員
この汲み出し純米吟醸酒には油っこい肴がいいな
プチ社交場の居酒屋

posted by はまべせいや at 04:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑問のウラガワ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月05日

三連符

母と枕を並べた床に入る温もり
意地を張って絵の具を水に落としたように見えた花
さっき分かれた彼女からもう一言聞きたかった言葉
当てもないのに大空に描いた夢
やさしすぎるものに誘って繋ぎ止める、きみ

posted by はまべせいや at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | ”きみ”とのちいさなものがたり | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月02日

悪魔が天使に擦り寄った

在るということの極意にめぼしをつけたとしても、在るということの意味をこじつけたとしても、依然として在るということの生成消滅は闇の中であるということに変わりはない。このことを探るということは、命綱なしで宇宙遊泳をすることに等しいと、ただそのことだけが明らかだ。観るものに観られ、語るものに語られ。こんな無意味だれが始めた、なにが始めた。闇の中にそう遠吠えしたくなる。メフィストフェレスが天使に擦り寄るとき。
posted by はまべせいや at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 黒の部屋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。